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「ノーマライゼーション」とは、障害を持つ人々を施設に隔離して生活させるのではなく、地域社会のなかで一般の人々と同じように生活できるようにすべきであるという考え方を指します。
この思想は、戦後の福祉サービスやケアのあり方に大きな影響を与えました。

バンク・ミケルセン
バンク・ミケルセンは、1950年代にノーマライゼーションの考えを最初に提唱した人物です。
彼は、第二次世界大戦中に反ナチズムのレジスタンス運動に参加し、その結果捕らえられて強制収容所での生活を余儀なくされました。
戦後、彼はデンマークの社会省で知的障害者施設の行政を担当することになります。そこで、知的障害者が巨大施設に隔離収容され、無差別な断種が行われている悲惨な実態を目の当たりにします。彼はこの状況を「本当に悲惨で、ナチスの強制収容所とすこしも変わりない」と表現し、深く胸を痛めました。
こうした経験から、バンク・ミケルセンは「知的障害者の親の会」とともに、施設に隔離された人々も、地域社会の中で一般の人々と同じように生活できるべきであるという原則を提唱しました。
これがノーマライゼーションの基本的な考え方となります。
ベンクト・ニィリエ
ニィリエは、ノーマライゼーションの理念を具体的な「原理」として体系化したことで知られています。
彼は、バンク-ミケルセンが唱えたノーマライゼーションの考え方をさらに深め、どんなに重い障害のある人も、以下の8つの生活条件のなかで暮らす「権利」があり、行政や社会にはそれを実現する「責任」があるという考え方を提唱しました。
1日のノーマルなリズム
1週間のノーマルなリズム
1年間のノーマルなリズム
人生のノーマルな経験
個人の尊厳と自己決定
男女両性の世界での生活
その社会でのノーマルな経済的水準
その地域でのノーマルな生活環境
これらは当初、知的障害者のために考えられたものですが、しだいにほかの障害にも応用され、1975年、国連「障害者権利宣言」の土台となり、1981年の国際障害者年をきっかけに、「障害者に対する世界行動計画」として世界中に広がっていきました。

ヨーロッパでは、移民の増加や失業率の上昇によつて社会的・経済的格差が広がり、多くの人がソーシャルエクスクルージョン(社会的排除)の状態におかれ、社会問題となっていました。
その対応策として、すべての人を社会の一員として包み支え合おうというソーシャルインクルージョン(社会的包摂・社会的包容力)が提唱されました。
この考え方は、ノーマライゼーションの発展形ともいわれています。