第36回 筆記試験日 2024年1月28日(日)

ペースメーカーの役割と注意事項について【障害の理解】

ペースメーカーは、心臓がうまく働かない人の体に埋め込む機械で、心臓の動きを助ける役割があります。

ペースメーカーを使用することで、ほとんど今までと変わりない生活を送ることができますが、日常生活を送るうえで、注意すべきことがいくつかあります。

今回は、ペースメーカーの役割と、装着している人が注意することについて確認していきます。

心臓の働きと不整脈

心臓の働き

まずは心臓の働きについて確認しましょう。

心臓は、規則的に拍動することで、からだ全体に血液を送り出すポンプのような役割をしています。

このポンプを動かしているのは電気刺激で、右心房の上部にある「洞結節(どうけっせつ)」とよばれる場所から信号が送られています。

「自然のペースメーカー」ともよばれるこの洞結節が、ごく弱い電気信号を規則的に出すことで、心臓の筋肉は収縮し、血液をからだ全体に送り出しています。

対象となる不整脈

正常な心臓では、電気信号が一定のルートで伝わることで、心臓の筋肉が収縮し、からだ全体に血液を送り出しています。

しかし、病気などが原因で別の場所から電気信号が発生したり送られた電気信号がルートのどこかで伝わらなくなってしまうことがあります。

こうなると、心臓の拍動のリズムや回数が一定でなくなってしまいます。

この状態を、「不整脈」と呼びます。

不整脈は、大きく3つのタイプに分かれます。

  • 頻脈(脈が早くなる)
  • 徐脈(脈が遅くなる)
  • 期外収縮(脈が途中で飛ぶ)

特に、ペースメーカーで治療が必要となるのは徐脈です。

徐脈が起こっている間は、拍動が減り、血液を送り出す回数が減ってしまいます。

そのため、酸素を含んだ血液が脳まで十分に送られなくなり、めまいを起こしたり、場合によっては失神することもあります。

こういった心不全の症状をともなう「徐脈性不整脈」の治療にペースメーカーは使用されています。

診断名と症状

代表的な診断名は以下のとおりです。

代表的な診断名

房室(ぼうしつ)ブロック

洞不全(どうふぜん)症候群

房室ブロックでは、電気信号が通るルートが障害されており、うまく電気信号が伝わりません。

洞不全症候群では、心臓の電気信号を作る「洞結節」が正常に機能しなくなります。

結果として、心臓に電気信号が伝わらないことで、徐脈となります。

原因としては、加齢や心筋梗塞といった「心臓病」や、「薬剤の副作用」などがありますが、多くの場合、原因は明らかではありません。

主な症状は以下のとおりです。

主な症状

徐脈による脳虚血→ふらつき、失神

心不全症状→息切れ、倦怠感、浮腫

ペースメーカーの埋め込みには、「徐脈」とそれにともなう「症状」があることが条件です。

ペースメーカーとは

ペースメーカーの役割

ペースメーカーは、脈拍が決められた一定以下になったときに刺激を送れるように、電気信号を24時間監視しています。

そして、必要なときには心臓の筋肉が動くように電気信号を送ります。

ペースメーカーの役割

心臓の徐脈性不整脈の監視

電気信号の送信

ペースメーカーは、脈拍が決められた一定以下にならないように心臓に刺激(電気信号)を送っています。

ペースメーカーの構造

ペースメーカーは、電気信号を作る本体(ペースメーカー)電気信号を伝えるリード部分(導線)に分かれています。

本体には、電池と電気回路が内蔵されており、その上部にリードをつなぐ部分があります。

本体から送り出された電気信号は、リード線を通って心臓に伝わります。

電池の寿命は約5〜10年となっています。

ペースメーカーの埋め込み

ペースメーカーとリードのどちらも、手術によって体内に完全に埋め込まれます。

埋め込み場所は、胸部(鎖骨の下)腹部のどちらかになりますが、

一般的には、胸部(鎖骨の下)を通る静脈にリードを挿入する方法がとられます。

多くの場合、左鎖骨の下方に埋め込まれることが多いため、更衣や入浴の際に確認しましょう。

日本での装着者数

日本では、毎年約4万人が新たにペースメーカーの埋め込み手術を受けており、累計では約40万人ともいわれています。

装着者の平均年齢は74歳で、そのうち約90%が65歳以上の高齢者となっています。

一般社団法人 日本不整脈デバイス工業会 都道府県別ペースメーカ、CRT-P植込台数 年次推移

埋め込み手術から退院後の生活

ペースメーカーの埋め込み手術から、退院後に必要となる定期検診といったスケジュールについても確認しておきましょう。

【入院】前日

心電図モニターの装着、入院生活と手術の説明、同意書の提出などを行います。

【埋め込み手術】当日

一般的な手術の場合は、胸部への局部麻酔。手術時間は1〜2時間程度です。

【退院】1週間前後

ペースメーカーのチェック、傷の状態の確認、退院後の生活指導などを行います。

【安静期間】1〜2ヶ月

埋め込んだリードが安定するまでは、上腕を激しく動かしたり、重いものを持つといった動作は控えます。

【定期検診】3〜6ヶ月

身体の状態やペースメーカーの作動状況、電池の残量、リード(導線)の異常の有無など確認します。

【本体交換】5〜10年

リードに問題がなければ、電池が内蔵されている本体部分の交換のみで、翌日には退院できます。

ペースメーカーの埋め込み手術が終わった後には、定期検診と電池交換が必要になります。

注意すべき機器・場所

ペースメーカーを使用することで、ほとんど今までと変わりない生活を送ることができますが、注意すべきことがいくつかあります。

ペースメーカーは超小型のコンピュータのようなもので、外部からの電気や磁力に影響を受けることがあります。

影響があるもの


家庭・生活

体脂肪計

金属探知機

電子商品監視機器(EAS)

マッサージチェア

アマチュア無線

全自動麻雀卓

電気自動車の急速充電器

空港で保安検査を受けるときには、ペースメーカー手帳を係員に提示して、金属探知器を用いない方法で検査を受けましょう。

また、お店や公共施設の出入口に設置されている盗難防止装置(EAS:電子商品監視機器)を通るときには、立ち止まらないで中央付近を速やかに通り過ぎるようにします。


医療機器

MRI ※機器によっては可

CT

放射線治療装置

体外式除細動器(AEDなど)

電位治療器

高・低周波治療器

※ペースメーカーの種類によっては、MRI検査に対応できるものがあります。

AEDの電極パッドには、胸の右上部分と左脇腹にパッドを貼る図が記載されています。

ペースメーカーの真上に電極パッドを貼ってしまうとペースメーカーが故障する場合もあるため、電極パッドはペースメーカーの真下に貼りましょう。

注意事項を守れば、安全に使用できるもの


家庭・生活

携帯電話

IH調理器/炊飯器

ペースメーカーから15cm以上離し、反対側の耳に当てて使用しましょう。

ペースメーカーの埋め込み部位が近づかないようにしましょう。

工業機器・施設

モニター、モニター使用機器

配電/分電盤

一般的に影響が少ないもの


家庭・生活

冷蔵庫/食洗機/洗濯機

テレビ/パソコン

電子レンジ

電気毛布/敷布団

電気こたつ/ホットカーペット

温水洗浄便座

電車

電動式自転車/自家用車

医療機器

補聴器

血圧計

体温計

心電図

工業機器・施設

電動工具

ペースメーカーから15cm以上離し、反対側の耳に当てて使用しましょう。

影響があるもの注意事項を守れば、
安全に使用できるもの
一般的に影響が少ないもの
家庭
生活
・マッサージチェア
・体脂肪計
・金属探知機
・電子商品監視機器(EAS)
・電位布団
・家庭用ジアテルミー(電気治療機)
・全自動麻雀卓
・電気自動車の急速充電
・携帯電話
・IH調理器/炊飯器
・冷蔵庫
・食洗機
・洗濯機
・テレビ
・パソコン
・電子レンジ
・電気毛布/敷布団
・電気こたつ
・ホットカーペット
・温水洗浄便座
・電車
・電動式自転車
・自家用車
医療機器・MRI(機器によっては可)
・放射線治療器
・電気メス
・体外式除細動器(AEDなど)
・電位治療器
・通電鍼治療器
・高/低周波治療器
・補聴器
・血圧計
・体温計
・心電図
工業機器
施設
・アマチュア無線機
・業務無線
・発電施設、変電施設
・溶接機
・電磁石
・モーター/モーター使用機器
・配電/分電盤
・電動工具

日常生活で注意すべきポイント

ペースメーカーを使用することで、ほとんど今までと変わりない生活を送ることができますが、注意すべきことがいくつかあります。

場面ごとに確認しましょう。

運動

手術が終わり、埋め込んだリードが安定する数カ月後には、ほとんどの運動をすることができます。

しかし、ペースメーカーに近い筋肉である上腕を長時間動かしたり、激しく身体がぶつかる運動は、ペースメーカ本体にダメージを与えたり、リードが損傷する可能性があるため、控える必要があります。

入浴

入浴がペースメーカに直接影響を与えることはありません。

長時間、熱い湯に入ることで脈拍が上昇し、心臓に負担がかかるため、入浴時間は短めにするといった配慮が必要です。

また、低周波電流が流れている電気風呂は、ペースメーカに影響を与えるため、利用は控えましょう。

旅行

電車や自動車、飛行機、客船といった乗り物に制限はありません。

しかし注意すべきポイントがいくつかあります。

自動車

・エンジンのかかっている車のボンネットを開けて、エンジン部分に身体を近づけないようにしましょう。

・ペースメーカーの埋め込み部分をシートベルトで圧迫しないようにしましょう。

・電気自動車の急速充電器は使用しない、設置場所には近づかないようにしましょう。

・スマートキーシステム(キーを持っているだけでドアロックが解除できるシステム)のアンテナから、ペースメーカ本体まで、22cm以上離れるようにしましょう。

飛行機

・空港の金属探知機に反応することがあるので、ペースメーカ手帳を係員に提示しましょう。

過去問

第33回 障害の理解

問題94 心臓機能障害のある人に関する記述として、最も適切なものを1つ選びなさい。

✕ 不正解

塩分を過度に摂取することで、体内を循環する血液量が増え、心臓に負担がかかります。

よって、心臓機能に障害があつ人には、塩分の制限が必要な場合があります。

◯ 正解

心臓機能の障害がある人は、慢性心不全を起こしている場合が多く、呼吸困難や動悸、息切れといった自覚症状がみられます。

✕ 不正解

呼吸困難や息切れといった自覚症状がみられますが、外出を避ける必要はありません。

医師と相談した上で、適度な運動を行い、残存機能を維持することが必要です。

✕ 不正解

ペースメーカーの装着者は、身体障害者手帳の障害等級1、3、4級に該当します。

よって、身体障害者手帳の交付対象となります。

等級詳細
1級・機器への依存が絶対的な状態(クラス1)でペースメーカー等を体内に入れた人
・機器への依存が相対的な状態(クラス2)でペースメーカー等を体内に入れ、身体活動能力が2メッツ未満の人
3級・クラス2以下の状態でペースメーカー等を体内に入れ、身体活動能力が2メッツ以上4メッツ未満の人
4級・クラス2以下の状態でペースメーカー等を体内に入れ、身体活動能力が4メッツ以上の人
✕ 不正解

精神的なストレスによって、脈拍が速くなったり、血圧が上昇するなど、心臓機能への影響は大きいといえます。

参考

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